親として抱えた罪悪感と、救われた言葉

「私の育て方が悪かったのではないか」
娘がうつ病と診断された日、私は医師に聞きました——「私の育て方が、悪かったのでしょうか」。医師は優しく答えました——「いいえ、お母さんのせいではありません」。でも私は、その言葉を信じられませんでした。
娘の幼少期を思い返しました。厳しく叱りすぎたこと。仕事で忙しくて、十分な時間を取れなかったこと。期待をかけすぎたこと。「あの時、ああしていれば」——後悔と罪悪感が、私を苦しめました。
この記事では、娘の精神疾患に向き合う中で抱えた罪悪感と、それをどう乗り越えてきたか、そして救われた言葉についてお話しします。同じように罪悪感に苦しんでいる親御さんに、少しでも心が軽くなるきっかけになれば幸いです。
罪悪感の始まり——「私のせいだ」
診断を受けた時の衝撃
25歳の娘が、うつ病と診断されました。仕事のストレスで体調を崩し、休職することになりました。
診断を聞いた時、私の頭には様々な思いが駆け巡りました。「なぜ娘が」「何が原因なのか」——そして、「私のせいではないか」という思いが、強く浮かびました。
医師は説明してくれました。うつ病は、遺伝、脳の働き、環境ストレスなど、様々な要因が複雑に絡み合って発症する病気だと。特定の誰かのせいではないと。
でも私は、自分を責め続けました。
⚠️ 注意
精神疾患の発症に、特定の誰かの「せい」はありません。遺伝的要因、生物学的要因、心理社会的要因など、多くの要因が複雑に関係しています。親が自分を責める必要はありませんが、多くの親がこの罪悪感に苦しみます。
過去を振り返り、後悔する
私は、娘の幼少期からの記憶をすべて振り返りました。
そして、「失敗」だと思えることばかりが、思い出されました。
- 幼稚園の時、泣いている娘を「甘えないで」と突き放したこと
- 小学生の時、テストの点数が悪いと叱りすぎたこと
- 中学生の時、進路について親の希望を押し付けたこと
- 高校生の時、反抗期の娘と激しく言い合ったこと
- 仕事が忙しくて、娘の話をちゃんと聞けなかったこと
- 「もっと頑張りなさい」と言い続けたこと
「良い思い出」は、なぜか思い出せませんでした。「悪かったこと」ばかりが、鮮明に蘇りました。
「完璧な親」になれなかった自分
私は、自分が「完璧な親」ではなかったことを、激しく後悔しました。
もっと優しくすべきだった。もっと話を聞くべきだった。もっと時間を取るべきだった。もっと愛情を示すべきだった——「〜すべきだった」という後悔が、際限なく湧いてきました。
そして思いました——「私が完璧な親だったら、娘は病気にならなかったのではないか」と。
この罪悪感が、私を苦しめました。
「親が罪悪感を持つのは、自然なことです。でもその罪悪感は、多くの場合、事実に基づいていません。完璧な親など存在しませんし、完璧な親であっても、子どもが精神疾患になることはあります」
— 後にカウンセラーが教えてくれた言葉
罪悪感が深まる——様々な要因
周囲の心ない言葉
罪悪感をさらに深めたのは、周囲の心ない言葉でした。
「最近の若い人は弱いのね」——親戚の一人が言いました。
「甘やかしすぎたんじゃない?」——別の人が言いました。
「うちの子は大丈夫よ。しっかり育てたから」——そんな言葉も聞こえてきました。
これらの言葉は、まるで「娘の病気は、私の育て方のせい」と言われているように感じました。
| 周囲の言葉 | 私が感じたこと |
|---|---|
| 「甘やかしすぎたのでは?」 | 私の育て方が悪かったんだ |
| 「厳しすぎたのでは?」 | 私が娘を追い詰めたんだ |
| 「気づかなかったの?」 | 私は母親失格だ |
| 「遺伝じゃない?」 | 私の遺伝子が悪いんだ |
| 「働きすぎたのでは?」 | 仕事より娘を優先すべきだった |
自分自身の完璧主義
もう一つ、罪悪感を深めた要因は、私自身の完璧主義でした。
私は、「良い母親」でありたいと思っていました。子どもに何不自由なく育ってほしい。幸せになってほしい——そう願っていました。
でも娘は、病気になりました。これは、私が「良い母親」ではなかった証拠だ——そう思い込みました。
完璧主義の私は、「失敗」を許せませんでした。そして娘の病気を、私の「失敗」だと捉えてしまったのです。
💡 ポイント
完璧主義的な親ほど、罪悪感を強く感じる傾向があります。しかし、「完璧な親」など存在しませんし、子どもの人生のすべてを親がコントロールできるわけでもありません。罪悪感の背景にある完璧主義に気づくことが、第一歩です。
娘の言葉に傷つく
娘自身の言葉にも、傷つきました。
ある日、娘は言いました——「お母さんは、いつも『頑張れ』って言った。それが、辛かった」。
その言葉を聞いて、私は打ちのめされました。娘を励ますつもりで言った言葉が、娘を傷つけていた——それを知って、自分を激しく責めました。
「やっぱり私のせいだ」——その思いが、確信に変わりました。
カウンセリングとの出会い——罪悪感と向き合う
「あなた自身もサポートが必要です」
娘の主治医から、「お母さんも、カウンセリングを受けてみませんか?」と勧められました。
最初は抵抗がありました。「病気なのは娘で、私じゃない」と思いました。でも、罪悪感に押しつぶされそうだった私は、藁にもすがる思いで、カウンセリングを受けることにしました。
初回のカウンセリングで、私は堰を切ったように話しました。娘の病気、自分の罪悪感、後悔の数々——すべてを吐き出しました。
カウンセラーは、ただ聞いてくれました。否定もせず、励ましもせず、ただ受け止めてくれました。
救われた言葉——「あなたのせいではありません」
数回のカウンセリングを重ねた後、カウンセラーは言いました——
「あなたのせいではありません。本当に、あなたのせいではないんです」。
この言葉は、医師からも聞いていました。でもカウンセラーの言葉は、なぜか心に染み入りました。
カウンセラーは続けて言いました——「完璧な親など、存在しません。すべての親は、間違いを犯します。でもそれは、子どもが精神疾患になる『原因』ではないんです」。
「あなたは、その時その時で、最善を尽くしてきたはずです。今の知識と視点で過去を見れば、『ああすればよかった』と思うのは当然です。でも、当時のあなたは、精一杯だったんです」。
この言葉を聞いて、私は泣きました。初めて、少しだけ、自分を許せたような気がしました。
✅ 成功のコツ
罪悪感を一人で抱え込まず、カウンセラーや家族会で話すことが大切です。同じ経験をした人や専門家から「あなたのせいではない」と言われることで、少しずつ罪悪感が軽くなります。一度で消えるものではありませんが、繰り返し聞くことで、受け入れられるようになります。
認知の歪みを知る
カウンセリングでは、認知の歪みについても学びました。
私の罪悪感は、いくつかの認知の歪みに基づいていました。
- 全か無か思考:「完璧な親でなければ、ダメな親だ」
- 過度の一般化:「いくつかの失敗をした = 全体的にダメな親だった」
- 心のフィルター:良かったことは無視し、悪かったことだけに注目
- 自己関連づけ:「娘の病気 = 私のせい」と、すべてを自分に関連づける
- べき思考:「〜すべきだった」という、過度な基準
これらの歪んだ思考パターンに気づくことで、罪悪感を客観視できるようになりました。
家族会で出会った言葉——「私も同じでした」
「罪悪感を持たない親はいない」
家族会に参加した時、先輩の親御さんが言いました——
「罪悪感を持たない親は、いません。みんな、自分を責めます。私もそうでした」。
その言葉を聞いて、「自分だけじゃない」と感じました。
他の参加者も、次々と語りました。「私も自分を責めた」「私の育て方が悪かったと思った」「何年も罪悪感に苦しんだ」——皆、同じ経験をしていました。
この「自分だけじゃない」という実感が、大きな救いになりました。
「でも、それは事実じゃない」
先輩の親御さんは、続けて言いました——
「でも、それは事実じゃないんです。私たちのせいじゃない。時間がかかりましたが、私はそれを受け入れられました。あなたも、いつか受け入れられる日が来ます」。
この言葉が、希望をくれました。今は罪悪感に苦しんでいても、いつか乗り越えられる——そう思えました。
娘からの言葉——「お母さんのせいじゃない」
そして何より救われたのは、娘自身の言葉でした。
ある日、私は娘に言いました——「あの時、ああしていれば、あなたは病気にならなかったかもしれない。ごめんね」。
娘は答えました——「お母さん、違うよ。お母さんのせいじゃない。私の病気は、いろんなことが重なってなったの。お母さんを責めたりしないし、むしろ感謝してる。支えてくれて、ありがとう」。
その言葉を聞いて、私は泣きました。娘が私を責めていないこと。感謝してくれていること——それを知って、心が軽くなりました。
罪悪感を手放す——少しずつの変化
「良かったこと」も思い出す
カウンセラーの提案で、「良かったこと」も思い出すようにしました。
娘との楽しい思い出。娘を褒めたこと。一緒に笑ったこと。娘の成長を喜んだこと——そうした記憶も、確かにありました。
「悪かったこと」だけでなく、「良かったこと」も見る——このバランスが大切だと学びました。
「完璧な親」を手放す
もう一つ大切だったのは、「完璧な親」という理想を手放すことでした。
完璧な親など、存在しません。すべての親は、間違いを犯します。それは当然のことで、恥ずかしいことではない——そう思えるようになりました。
「十分良い親」——その言葉が、私を楽にしてくれました。完璧でなくても、十分良い親であればいい。娘を愛し、支えようとしている——それで十分なのだと。
「過去」ではなく「今」を大切にする
そして、「今」を大切にすることを学びました。
過去は変えられません。でも、今は変えられます。今、娘にできることをする。今、娘を支える——それが大切なのだと。
過去の後悔に囚われるのではなく、今と未来に目を向ける——この視点の転換が、罪悪感を軽くしてくれました。
2年後の今——罪悪感との付き合い方
罪悪感が完全になくなったわけではない
2年が経った今も、罪悪感が完全になくなったわけではありません。
時々、「あの時、ああしていれば」と思うこともあります。でも以前と違うのは、その思いに囚われなくなったことです。
「そういう思いが浮かぶのは自然だ」と受け止め、「でも、それは事実じゃない」と自分に言い聞かせる——この対処法を、身につけました。
娘との関係が深まった
罪悪感と向き合う過程で、娘との関係も深まりました。
以前より、お互いの気持ちを話せるようになりました。私の後悔も、娘の思いも、正直に言い合えるようになりました。
病気をきっかけに、私たちの関係は、より誠実なものになったように思います。
同じ立場の親を支えたい
そして今、私は家族会で、同じように罪悪感に苦しむ親御さんを支える側になりました。
「あなたのせいじゃない」「私も同じだった」「いつか楽になる日が来る」——かつて私が救われた言葉を、今度は私が伝えています。
自分の経験が、誰かの役に立つ——それが、新しい意味を私に与えてくれました。
罪悪感に苦しむ親御さんへ
あなたのせいではありません
もし今、罪悪感に苦しんでいるなら、まず知ってほしいことがあります——あなたのせいではありません。
精神疾患は、様々な要因が複雑に絡み合って発症します。特定の誰かの「せい」ではありません。
あなたは、悪い親ではありません。あなたは、子どもを愛している親です。
罪悪感は自然な感情
罪悪感を持つことは、自然なことです。子どもを愛しているからこそ、感じる感情です。
でも、その罪悪感は、多くの場合、事実に基づいていません。認知の歪みによって、過度に自分を責めているだけなのです。
罪悪感を否定する必要はありません。でも、それに囚われる必要もありません。
一人で抱え込まないで
罪悪感を一人で抱え込まず、誰かに話してください。
カウンセラー、家族会、信頼できる友人——話すことで、少しずつ楽になります。
「あなたのせいじゃない」——その言葉を、繰り返し聞いてください。最初は信じられなくても、聞き続けることで、少しずつ受け入れられるようになります。
「今」を大切に
最後に、これだけは伝えたいです——「今」を大切にしてください。
過去は変えられません。でも、今と未来は変えられます。
今、子どもにできることをする。今、子どもを支える——それが、最も大切なことです。
罪悪感に囚われるより、今と未来に目を向けてください。あなたと子どもの、新しい関係が、そこから始まります。
「罪悪感は、親が子どもを愛している証です。でも、愛しているからこそ、自分を責めるのをやめてください。あなたが元気でいることが、子どもにとって最大のサポートです」
— 家族会の先輩の言葉
よくある質問
Q1: 罪悪感を完全になくすことはできますか?
完全になくすことは難しいかもしれません。でも、罪悪感に囚われず、適切に対処できるようになることは可能です。時々罪悪感が浮かんでも、「それは事実じゃない」と認識し、手放せるようになります。完全になくすことより、上手く付き合うことを目指しましょう。
Q2: 子どもに謝るべきですか?
もし具体的に傷つけたことがあるなら、謝ることは意味があります。ただし、「病気にさせてごめん」という謝罪は適切ではありません。病気はあなたのせいではないからです。また、過度な謝罪は子どもに罪悪感を与えることもあります。カウンセラーや主治医と相談しながら決めるとよいでしょう。
Q3: 周囲の心ない言葉に、どう対処すればいいですか?
周囲の言葉は、多くの場合、無知や偏見から来ています。真に受ける必要はありません。「そういう見方もあるのね」と受け流し、距離を取ることも一つの方法です。必要に応じて、精神疾患について説明することもできますが、無理に理解を求める必要はありません。理解してくれる人とつながることが大切です。
Q4: 自分の親も完璧ではなかったのに、なぜ自分は完璧であろうとするのですか?
多くの場合、「自分の親のようにはなりたくない」という思いや、「子どもには幸せになってほしい」という強い願いから、完璧を目指してしまいます。また、社会の「良い親」像も影響します。でも、完璧な親など存在しません。「十分良い親」で十分なのだと、受け入れることが大切です。
Q5: 罪悪感を乗り越えるのに、どのくらい時間がかかりますか?
人によって大きく異なります。数ヶ月の人もいれば、数年かかる人もいます。大切なのは、焦らないことです。罪悪感と向き合い、少しずつ手放していく——そのプロセスを、自分のペースで進めてください。カウンセリングや家族会のサポートを受けながら、一歩ずつ進んでいきましょう。
まとめ
この記事では、娘の精神疾患に向き合う中で抱えた罪悪感と、それを乗り越えてきた道のりをお話ししました。
- 子どもの精神疾患に、親の「せい」はありません
- 罪悪感は自然な感情ですが、多くは認知の歪みに基づいています
- 「あなたのせいではない」という言葉を、繰り返し聞くことが大切です
- 過去ではなく「今」を大切にすることで、罪悪感を手放せます
もし今、罪悪感に苦しんでいるなら、一人で抱え込まないでください。あなたのせいではありません。カウンセリングや家族会で、同じ経験をした人とつながってください。少しずつ、罪悪感を手放していけます。あなたは、十分頑張っています。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





