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障害者のための安全な階段・廊下設計のポイント

📖 約47✍️ 伊藤 真由美
障害者のための安全な階段・廊下設計のポイント
本記事は、障害のある方が自宅内で安全に移動するための階段・廊下設計のポイントを解説します。廊下については、車椅子対応の幅(90cm以上)と防滑床材の選定、連続した手すりの適切な設置高さを詳述。階段については、転倒防止のため蹴上げを低く、踏面を広くする設計の黄金比、段鼻の視認性を高める照明と色使いの工夫を解説します。また、照明計画による安全性の向上、階段昇降機などの補助具の選択肢を示します。改修を進める上では、福祉住環境コーディネーターとの連携、介護保険など助成制度の「事前申請」の厳守が重要であることを強調します。

転倒リスクをゼロに!障害者のための安全な階段・廊下設計のポイント

ご家族に障害のある方がいらっしゃる皆様、家の中で最も不安を感じる場所はどこでしょうか。多くの方が、階段や廊下での移動を挙げられるかもしれません。

階段や廊下は、住居内での移動経路として不可欠でありながら、段差や狭さ、暗さから、転倒・転落といった重大な事故につながりやすい場所です。特に、身体機能が低下している方や、視覚・平衡感覚に課題を持つ方にとって、日々の移動は大きな負担となります。

この記事では、障害のある方が自宅内で安心して移動できるよう、階段と廊下の設計や改修に関する具体的なポイントを、専門家の知見を交えて詳しく解説します。

安全を確保するための寸法、手すりの選び方、照明の工夫など、すぐに実践できるアイデアを提供し、皆様の住まいをより安全で快適な空間に変えるお手伝いをします。


🚶 廊下設計の基本:幅、床材、そして動線の確保

廊下は、各部屋をつなぐ「家の血管」です。ここが安全で快適であることは、家全体の生活の質(QOL)に大きく影響します。

安全性を高める廊下幅と床材の選定

まず、廊下の幅は最低限のバリアフリー基準を満たすことが重要です。一般的な住宅では75cm程度が多いですが、車椅子を利用される場合は、廊下幅を最低でも85cm~90cm以上確保することが望ましいです。

特に、曲がり角や部屋の入口では、車椅子の回転や方向転換のために、さらに広いスペース(目安として直径150cm)が必要です。

床材は、安全性を左右する重要な要素です。滑りやすいフローリングは転倒のリスクを高めます。推奨されるのは、防滑性の高いフローリング、クッションフロア、またはカーペットです。

段差をなくすことも絶対条件です。部屋と廊下の境目にある敷居は、可能な限り取り払い、床面をフラットにすることで、つまずきや車椅子の移動の障害を解消します。

また、廊下に置かれた障害物(電気コード、家具など)は、移動の妨げになります。これらは可能な限り壁際に寄せたり、収納したりし、常に移動経路をクリアにしておくことが大切です。

💡 ポイント

廊下と部屋の床材の色を少し変えるなど、視覚的なコントラストをつけることで、特に視覚障害や知的障害のある方が、空間の変化を認識しやすくなり、安全性が向上します。

自立歩行を支える手すりの設置

廊下に手すりを設置することは、移動の安定性を高め、転倒を予防するための最も効果的な改修の一つです。

手すりは、利き手だけでなく、両側に設置することが理想的です。途中で途切れることなく、玄関から居室、そしてトイレや浴室まで連続して設置すると、ご本人が安心して移動できます。

適切な高さは、ご本人が立位で軽く肘を曲げた時の手首の高さ(一般的に床から75cm~85cm程度)です。しかし、この高さはご本人の体型や歩行状態により調整が必要なため、福祉住環境コーディネーターや理学療法士の意見を聞きながら決定しましょう。

手すりの形状も重要です。断面が丸く握りやすいもの(直径30mm~40mm程度)、滑りにくい素材を選び、壁から適度な隙間(4cm~5cm程度)を空けて、指が入るように設計することが求められます。


🪜 階段の安全対策:寸法、照明、そして昇降補助

階段は、家の中で最も事故が起こりやすい場所です。階段を安全に利用するためには、物理的な寸法と、それをサポートする照明や補助具の工夫が欠かせません。

階段寸法(蹴上げ・踏面)の黄金比

安全な階段の寸法には、建築基準法で定められた最低限の基準がありますが、障害のある方のための「黄金比」が存在します。

階段の段の高さ(蹴上げ:けあげ)は、低く抑える(推奨18cm以下、理想は15cm以下)。足を乗せる奥行き(踏面:ふみづら)は、広く確保する(推奨25cm以上)ことが、段差のつまずきや踏み外しを防ぐ鍵となります。

また、段鼻(だんばな:段の先端)が丸みを帯びていると、視覚的に認識しにくく、滑りやすい場合があります。段鼻の角はしっかりと出し、滑り止め加工を施すことが安全性を高めます。

蹴上げと踏面の合計が約45cm程度になるように設計すると、比較的楽に昇降できると言われています。建築の専門家と相談し、現在の階段の寸法を測り直すことから始めましょう。

⚠️ 注意

階段の途中に変則的な段(回り階段の曲がり部分など)があると、足元が不安定になり転倒リスクが急増します。可能であれば、一直線の階段(直階段)に改修することが最も安全です。

階段の視認性を高める照明と色

階段での事故の多くは、足元が見えにくいことに起因します。

階段の照明は、上部から全体を照らすだけでなく、足元をピンポイントで照らすフットライトやセンサーライトを、各段または数段おきに設置することが非常に有効です。

照明のスイッチは、階段の上と下の両方に設置し、どちらからでも操作できる三路スイッチにしましょう。これにより、常に明るい状態で階段を使い始めることができます。

さらに、階段の色使いも視認性を高めます。特に、段鼻の部分に、他の部分と異なる色の滑り止めテープやラインを貼ることで、段差の終わりを明確にし、視覚的な誘導を促します。

これは、特に高齢者や視覚に課題を持つ方にとって、大きな安全対策となります。


💡 共通の工夫:照明、色、そして緊急時対策

階段と廊下の両方に共通して適用できる、安全と安心を高めるための工夫があります。これらは、身体的なバリアフリーだけでなく、精神的・知的な安心感にもつながります。

視覚・認知に配慮した照明計画

廊下や階段の照明は、明るさのムラがないように、全体を均一に照らすことが重要です。

特に廊下は、日中に自然光が入りにくい場所が多いため、センサーで自動点灯する照明を導入すると、両手が塞がっていても安全に移動できます。センサーライトは、障害のある方がいる家庭では、電気の消し忘れ防止にも役立ち、省エネにもつながります。

色温度(光の色)は、目に優しく、落ち着いた雰囲気の温白色(暖色と白色の中間)を選ぶと、リラックス効果と視認性のバランスが取れます。

知的障害や精神障害のある方で、強い光が刺激になる場合は、間接照明や調光機能付きの照明を導入し、ご本人が最も心地よく感じる明るさに調整できるようにすることが大切です。

✅ 成功のコツ

夜間に移動する際の安全性を高めるため、廊下の壁や階段の蹴込(けこみ)部分に、蓄光テープ(光を蓄えて暗闇で光るテープ)を貼るという、安価で手軽な方法も有効です。

手すりの工夫とバリア解消のための補助具

手すりは、ただ取り付けるだけでなく、素材や色に工夫を加えます。

例えば、触覚に敏感な方のために、手すりの素材を木製や樹脂製にし、冷たさを感じにくいものを選ぶ配慮も大切です。また、廊下の終点や階段の上下では、手すりを壁側に曲げる(袖返し)ことで、衣服の引っかかりを防ぎ、安全性と見た目の美しさを両立させます。

階段の昇降が困難になった場合、ホームエレベーターや階段昇降機の設置も選択肢に入ってきますが、これらは大規模な改修となるため、公的助成制度(障害者総合支援法や自治体の補助金)を検討しましょう。

補助具 主な効果 改修の規模
階段昇降機 自力での昇降が困難な方の移動 大(設置工事が必要)
置き型手すり 一時的な移動補助、介助のサポート 小(工事不要)
段差スロープ 玄関などの小さな段差解消 小〜中


🤝 専門家との連携と改修のステップ

安全な階段・廊下設計を実現するためには、ご本人の状態を理解し、建築的な知識を持つ専門家と連携することが不可欠です。自己判断での改修は、かえって危険を生む可能性があるため注意が必要です。

福祉住環境コーディネーターの役割

福祉住環境コーディネーターは、改修計画の要となる専門家です。

彼らは、理学療法士などの医療専門職と連携し、ご本人の動作能力(歩行、筋力、バランスなど)を正確に評価した上で、「どの高さに、どの太さの手すりが必要か」「どの位置まで廊下を広げるべきか」といった具体的な設計上のアドバイスを提供します。

コーディネーターに依頼することで、公的制度(介護保険、障害者総合支援法)の申請に必要な書類作成もスムーズに進みます。彼らは制度の知識も豊富であり、費用対効果の高い改修計画を立案してくれます。

設計図や見積もりを作成する段階から、必ずコーディネーターを関わらせるようにしましょう。

「コーディネーターの提案で、最初は考えていなかった廊下の幅拡張が実現し、車椅子での移動だけでなく、ヘルパーさんの介助スペースも確保できて本当に助かりました。」

— 家族からの感謝の声

改修工事を進める上での注意点

改修工事を行う際には、以下の点に注意しましょう。

  • 複数の業者に見積もりを依頼: バリアフリー工事の実績が豊富で、かつ福祉住環境コーディネーターとの連携に慣れている工務店を数社選定し、相見積もりを取る。
  • 事前申請の徹底: 介護保険や助成制度を利用する場合、工事の着工前に必ず市町村の事前申請を完了させる。これを怠ると、助成金が受け取れなくなる可能性があります。
  • 工事中の安全確保: 階段や廊下の工事中は、ご本人の生活動線が大幅に制限されます。工事期間中の一時的な代替ルートや仮設手すりを設けるなど、安全対策を業者と綿密に打ち合わせる。

特に、階段昇降機などの大規模な機器を導入する場合、メンテナンスやアフターサービスについても契約前に明確にしておくことが重要です。


❓ よくある質問(Q&A)と相談窓口

階段や廊下の改修に関して、よくある質問と、頼れる相談窓口をまとめました。

Q1. 賃貸住宅でも手すりの取り付けは可能ですか?

A. オーナー(大家さん)の許可があれば可能です。しかし、退去時に原状回復が求められることが多いため、工事を伴わない「突っ張り式」や「据え置き型」の手すりから検討することをおすすめします。

どうしても工事が必要な場合は、オーナーに対し、公的制度を利用すること、退去時に責任をもって補修費用を負担することを具体的に提案し、書面で許可を得ましょう。

Q2. 階段の昇降が困難になった場合、階段昇降機とエレベーター、どちらが良いですか?

A. どちらもメリット・デメリットがあります。

  • 階段昇降機: 設置費用が比較的安価、工事期間が短い、設置スペースが少なくて済む。ただし、停電時は使用不可、車椅子からの移乗が必要。
  • ホームエレベーター: 車椅子のまま昇降可能、介助者も同時に移動できる、将来の介護負担軽減に最も効果的。ただし、費用が高額、設置スペースと建築的な強度が必要。

ご本人の残存機能、介助者の有無、そして予算と住宅の構造を総合的に判断し、福祉住環境コーディネーターに相談して選びましょう。

Q3. どこに相談すれば良いですか?

A. まずは以下の専門窓口に連絡しましょう。

  • 市町村の福祉担当課または地域包括支援センター: 介護保険や障害者総合支援法など、助成制度の相談ができます。
  • 相談支援専門員(障害者)/ケアマネジャー(高齢者): サービス利用計画と連携させ、改修の必要性を専門的に判断してもらえます。
  • 福祉住環境コーディネーター: 具体的な設計、工務店の紹介、申請書の作成をサポートしてくれます。


✨ まとめと次の一歩の提案

障害者のための安全な階段・廊下設計は、転倒リスクを減らすだけでなく、ご本人の自立的な生活範囲を広げ、ご家族の介助の負担を劇的に軽減するという大きな意味を持っています。

階段の寸法、連続した手すり、足元を照らす照明の工夫など、一つひとつの対策が、日々の「安心」を形作ります。そして、この「安心」は、ご家族全員の心のゆとりにつながります。

安全な住環境づくりは、ご本人の障害特性と将来の変化を見越した計画的な改修によって実現されます。今日からその計画をスタートしましょう。

次の一歩の提案

まずは、スマートフォンでご自宅の階段と廊下の写真を数枚撮り、その写真を持って、お住まいの地域の福祉住環境コーディネーターに連絡を取って、「写真を見て、どこから改修すべきかアドバイスがほしい」と依頼してみましょう。具体的な相談から計画が始まります。

まとめ

  • 廊下は車椅子が通れる幅(90cm以上が理想)と、滑りにくく段差のない床材で移動の安定性を確保する。
  • 階段は、蹴上げを低く、踏面を広く設計し、段鼻の滑り止めと、上下・足元を照らす適切な照明で視認性を高める。
  • 改修は、福祉住環境コーディネーターに相談し、介護保険や自治体の助成制度を必ず事前申請して費用を賢く抑える。

伊藤 真由美

伊藤 真由美

いとう まゆみ33
担当📚 実務経験 10
🎯 就労支援🎯 進路支援

📜 保有資格:
特別支援学校教諭免許、社会福祉士

特別支援学校で5年教員を務めた後、就労継続支援B型事業所で5年勤務。「学校から社会へ」の移行支援と、「自分のペースで働く」を応援します。進路選択や作業所選びの情報をお届けします。

大学で特別支援教育を学び、卒業後は特別支援学校の教員として5年間勤務。知的障害や発達障害のある生徒たちの進路指導を担当する中で、「卒業後の支援」の重要性を痛感しました。そこで教員を辞め、就労継続支援B型事業所に転職。現在は生活支援員として、様々な障害のある方が自分のペースで働く姿を日々見守っています。特に大切にしているのは、「働くことがすべてではない」という視点。一般就労が難しくても、作業所での仕事や日中活動を通じて、生きがいや居場所を見つけることは十分可能です。記事では、特別支援学校卒業後の進路選択、就労継続支援A型・B型の違い、作業所での実際の仕事内容など、「自分らしい働き方・過ごし方」を見つけるための情報を発信します。

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💭 福祉の道を選んだ理由

特別支援教育を学び、「卒業後の支援」の重要性を感じたことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

作業所での仕事や日中活動を通じて、生きがいや居場所を見つけた方々を見守ってきたこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

「働くことがすべてではない」という視点を大切に、自分らしい過ごし方を見つける情報を発信します。

🎨 趣味・特技

ハンドメイド、音楽鑑賞

🔍 最近気になっているテーマ

発達障害のある方の就労支援、工賃向上の取り組み

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