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日々の療育が少しずつ実を結んだ瞬間

📖 約64✍️ 鈴木 美咲
日々の療育が少しずつ実を結んだ瞬間
知的障害と難病を抱える息子を育てる母親が、数年間にわたる療育生活の中で、成果が見えず苦悩した日々から、ある日突然コミュニケーションが成立した「実を結んだ瞬間」までの軌跡を綴った体験談です。療育を技能習得ではなく「生きやすさの獲得」と捉え直す重要性や、家庭での視覚支援、スモールステップの工夫、親のメンタル管理(レスパイト)の必要性について詳しく解説しています。発達指数(DQ)の変化データや、パニックを乗り越えた実例を交え、今、成果が出ずに不安を感じている家族へ「地道な積み重ねは必ず実を結ぶ」という希望のメッセージを届けます。

亀の歩みのような成長が輝いた瞬間

毎日の療育(りょういく)に通いながら、「本当にこの子のためになっているのだろうか」と、ふと不安になることはありませんか。知的障害や難病を抱えるお子さんの成長は、目に見える変化が少なく、まるで止まった時計を見つめているような焦りを感じることもあるでしょう。

私自身、息子の療育を始めてからの数年間は、暗闇の中で出口を探しているような日々でした。しかし、ある日突然訪れた小さな「変化」が、これまでの点と点を繋ぎ、大きな感動となって私の元へ返ってきました。その瞬間、私はこれまでの苦労がすべて報われたような気持ちになったのです。

この記事では、日々の地道な積み重ねがいかにして実を結んだのか、その具体的なエピソードと、親子で前を向くためのヒントをお伝えします。今、成果が見えずに疲れを感じているあなたの心が、少しでも軽くなることを願っています。


終わりの見えないトンネルのような日々

期待と落胆の繰り返し

息子に重度の知的障害と、希少な難病の診断が下りたのは2歳の時でした。それからすぐに個別療育集団療育を組み合わせた生活が始まりましたが、最初の1、2年は「変化」と呼べるものはほとんどありませんでした。

療育センターの先生方はいつも優しく接してくれましたが、息子は椅子に座ることすら難しく、床に寝転がってパニックを起こす毎日。周りの子が「ちょうだい」や「どうぞ」を覚えていく中で、息子は自分の世界に閉じこもったまま、私の声さえ届いていないように見えました。

「この子に何かを教えることは不可能なのかもしれない」。帰り道の車内で、チャイルドシートに座る無言の息子を見つめながら、私は何度も涙を拭いました。療育の月謝や送迎の労力、何よりも「親としての期待」が、次第に重い荷物のように感じられていったのです。

「成果」を求めすぎていた自分

当時の私は、療育を「習い事」や「リハビリ」と同じように捉えていました。何かを教えれば、それがすぐに技能として身につくはずだという、ある種の焦りがあったのだと思います。しかし、障害のある子供にとっての成長は、決して直線的なものではありませんでした。

心理士の先生に「お母さん、今は根っこを張っている時期ですよ」と言われても、土の下で見えない根っこを信じるのは簡単ではありません。数字や言葉として表れない「成長」を信じることができず、私は常に「いつになったらできるようになるの?」という問いを自分に投げ続けていました。

しかし、その焦りは息子にも伝わっていたのでしょう。私の顔色を伺うような息子の表情を見て、私は「このままではいけない」と思い始めました。成果を求めるのではなく、まずはこの子が「楽しい」と思える時間を守ることに、目的を切り替えることにしたのです。

小さな種まきを信じる力

それからの私は、目に見える進歩を追うのをやめました。スプーンを1回持てた、目が1秒合った、そんな些細な出来事を「今日の最高の結果」として喜ぶようにしたのです。療育センターでも、先生と一緒に「今日は昨日より笑っていましたね」と、感情の動きを共有することに重点を置きました。

家庭でも、療育で教わった「視覚支援」を地道に取り入れ続けました。予定表を絵カードで作ったり、手順を写真で示したり。息子がそれを見て反応しなくても、「種をまいているんだ」と自分に言い聞かせ、淡々と続けました。

その「種まき」は、半年経っても1年経っても芽を出す気配はありませんでした。それでも、私は「この子のペースがある」という言葉をお守りのようにして、日々を積み重ねていきました。その芽が、ある日突然、鮮やかに開くことになるとも知らずに。


奇跡のような「実を結んだ」瞬間

初めて意思が通じ合った日

その瞬間は、何気ない日曜日の朝に訪れました。いつものように私が朝食の準備をしていると、息子がトコトコと歩み寄ってきて、冷蔵庫に貼ってある「バナナ」の絵カードを指差したのです。そして、私の顔をじっと見て、「あ!」と声を上げました。

これまでは、お腹が空けば泣くだけだった息子が、自発的に手段を使って自分の欲求を伝えてきたのです。それは、数千回、数万回と繰り返してきた絵カードの練習が、ついに彼の脳の中で意味を成した瞬間でした。

私は震える手でバナナを差し出しました。息子はそれを満足そうに受け取り、少しだけ微笑んだように見えました。言葉こそありませんでしたが、そこには間違いなく、私と息子の間の「確かなコミュニケーション」が存在していました。3年間の沈黙が破られた、最高の瞬間でした。

パニックが「待てる」に変わった時

もう一つの大きな変化は、外出先で起きました。息子は「並ぶこと」が大の苦手で、レジ待ちなどでパニックを起こすのが常でした。しかし、その日は違いました。私が「あと3分だよ」と視覚タイマーを見せると、彼はじっとタイマーを見つめ、深呼吸をしたのです。

かつての彼なら、床にひっくり返って叫んでいたはずです。しかし、療育で学んだ「終わりを知る」「待つためのリラクゼーション」が、彼の心の中に「安心の土台」として根付いていました。自分の感情をコントロールしようとする彼の背中を見て、私は成長というものの正体を知りました。

「待てたね、すごいね!」と彼を抱きしめた時、周囲の目は気になりませんでした。彼が自分自身の困難を、自分自身の力で乗り越えた。その事実が、何よりも誇らしく、愛おしく感じられました。療育は、単なる技能の習得ではなく、彼が「生きやすくなるための術」を授けてくれていたのです。

療育の効果を数字で振り返る

感覚的な喜びだけでなく、客観的なデータも私たちの自信を支えてくれました。半年に一度受けている「新版K式発達検査」の結果を振り返ると、緩やかではありますが確実に数値が伸びていたのです。以下は、療育開始時と3年後の比較データです。

評価項目 療育開始時(2歳) 3年後(5歳) 具体的な変化
姿勢・運動 DQ 45 DQ 52 体幹がしっかりし、階段の昇降が可能に
認知・適応 DQ 38 DQ 48 絵カードでの意思疎通、型はめが完成
言語・社会 DQ 30 DQ 42 喃語から単語の理解、指示への反応が増加

※DQ(発達指数)は、その年齢の標準的な発達を100とした場合の数値です。

数字だけを見れば、依然として「重度」の枠組みかもしれません。しかし、私たち家族にとっては、この10ポイントの差に、血の滲むような努力と、無数の笑顔が詰まっています。数字は、私たちの歩みが間違っていなかったことを証明してくれる、心強い味方となりました。


家庭で「実を結ぶ」ための工夫

療育を「生活」の一部に溶け込ませる

療育センターで行う1時間のセッションだけが療育ではありません。本当の成果が出るのは、そのエッセンスをいかに24時間の生活の中に組み込めるかだと気づきました。私は、療育で学んだ「構造化(こうぞうか)」を徹底的に家の中で実践しました。

構造化とは、どこで何をするのかを明確にし、環境を整えることです。おもちゃの棚には中身の写真を貼り、食事の椅子には足台を置いて姿勢を安定させる。こうした「ちょっとした工夫」の積み重ねが、息子の混乱を防ぎ、彼が自力で動ける場面を増やしていきました。

「教える」のではなく「環境を整える」。この視点を持つようになってから、私のストレスも激減しました。できないことを叱るのではなく、「できる環境を用意できていなかった」と考えることで、次はどうサポートすべきかという建設的な思考になれたからです。

褒め方の「黄金比」を見つける

療育の先生に教わった最も大切なテクニックは、褒め方でした。障害のある子供は、失敗体験を積み重ねがちです。だからこそ、成功体験を意図的に作り、それを逃さず褒める必要があります。私たちが実践した「褒め方のルール」は以下の通りです。

  • 即座に:行動が終わった0.5秒以内に褒める
  • 具体的に:「すごい」だけでなく「座れたね」と行動を言葉にする
  • 大げさに:本人の好む刺激(ハイタッチ、抱っこ、拍手など)を交える

一時期、私は「褒めてばかりで甘やかしにならないか」と不安になったこともありました。しかし、発達に課題のある子にとって、肯定的な注目は「脳のガソリン」です。このガソリンが満タンになって初めて、新しいことへの挑戦心が生まれるのです。今では、叱る1に対して褒める10、という比率を意識しています。

「記録」が親のメンタルを守る

成長がゆっくりな子供を育てていると、どうしても昨日と今日を比較して「変わっていない」と絶望しがちです。それを防ぐために、私は「できたことノート」をつけ始めました。どんなに小さなことでも、日付とともに書き留めておくのです。

✅ 成功のコツ

「目が合った」「嫌な時に首を振った」など、ごく些細なことをメモしておきましょう。3ヶ月後に見返すと、当時は気づかなかった大きな進歩に驚くはずです。記録は、親の「主観的な焦り」を「客観的な希望」に変えてくれます。

このノートは、主治医や療育の先生との面談時にも非常に役立ちました。家庭での具体的な様子を伝えることで、より精度の高いアドバイスをもらえるようになり、結果として支援の質が向上したと感じています。


地域と社会に助けを求める技術

支援のネットワークを広げる

療育が実を結ぶためには、家庭以外の場所でも同じようなサポートが受けられることが理想です。私たちは、保育園(併行通園)や放課後等デイサービス、地域のボランティアなど、積極的に「外の力」を借りるようにしました。

最初は「障害があることを知られるのが怖い」という思いもありましたが、勇気を出してオープンにし、具体的な「助けてほしいポイント」を伝えるようにしました。すると、周囲の人々は驚くほど協力的で、息子を温かく見守ってくれるようになったのです。

理解者は、自分の発信から生まれます。以下の表は、私たちがどのような機関にどのような相談をしているかをまとめたものです。複数の視点を持つことで、息子の新たな可能性に気づくことも増えました。

機関名 主に相談している内容 得られるメリット
児童相談所・福祉窓口 手帳の更新、手当の申請 経済的な基盤と公的サービスの確保
児童発達支援センター 具体的な指導法、就学相談 専門的な知見に基づいた発達の支援
訪問看護・リハビリ 家庭でのケア、食事の工夫 生活に密着した医学的アドバイス
親の会・コミュニティ 愚痴、生活の裏技、進路情報 孤独感の解消と生きた情報の入手

専門用語を「自分たちの言葉」にする

療育の世界には、「応用行動分析(ABA)」や「感覚統合(かんかくとうごう)」といった難しそうな言葉がたくさん出てきます。最初は戸惑いましたが、これらを理解することは、息子の「取扱説明書」を作るプロセスだと思えるようになりました。

例えば、「このパニックは感覚過敏のせいだ」と分かれば、叱る代わりにイヤーマフ(耳栓のような防音具)を装着するという具体的な解決策に繋がります。専門用語は、親を突き放すためのものではなく、子供の生きづらさを解明するための鍵なのです。

分からない言葉があれば、遠慮なく先生に聞きましょう。私たちは「それは家庭の言葉で言うとどういう意味ですか?」とよく質問しています。親が理解し、納得して実践することが、療育の成果を最大化させる一番の近道だからです。

レスパイト(休息)を戦略的に取る

「子供のために」と走り続ける親ほど、燃え尽き症候群(バーンアウト)に陥りやすいものです。進行性の難病や重い障害がある場合、療育は1年や2年で終わるものではありません。10年、20年と続くマラソンのようなものです。

⚠️ 注意

親が疲弊しきってしまうと、どんなに優れた療育も効果を発揮しません。一時預かりサービスやショートステイ(短期入所)を積極的に使い、親自身が「自分に戻る時間」を確保してください。休むことは、育児放棄ではなく、子供への愛を継続するためのメンテナンスです。

私がリフレッシュして笑顔で帰宅すると、息子も私の明るい表情を察して、いつもより機嫌よく過ごしてくれます。「親の笑顔が最大の療育である」。これは、数年間の葛藤の末に私が辿り着いた、最も大切な結論の一つです。


よくある質問(FAQ)

Q1. 療育を始めて1年経ちますが、全く変化がありません。やめた方がいいでしょうか?

1年という期間は、発達に課題のあるお子さんにとっては「環境に慣れる」だけで精一杯な時期かもしれません。変化がないように見えても、脳の中では新しい神経回路を作ろうと必死にエネルギーを蓄えている可能性があります。もし今のプログラムが本人に合っていないと感じるなら、中断するのではなく「やり方を変える(種類を変える)」ことを検討してみてください。

Q2. 難病で体力がなく、療育に通うこと自体が負担になっています。

お子さんの体調が最優先です。通所が難しい場合は、居宅訪問型児童発達支援という、専門家が自宅に来てくれるサービスも存在します。外に出るエネルギーを温存し、リラックスできる自宅で療育を受けることで、より効果が出る場合もあります。自治体の相談員さんに、今の体力の状況を伝えてみてください。

Q3. 下の子の育児もあり、家で療育を実践する余裕がありません。

完璧を目指す必要はありません。食事の前に「座ろうね」と言う、着替えの時に「袖だよ」と指差す。そんな数秒の関わりだけでも、積み重なれば立派な療育になります。「ながら療育」で十分です。また、きょうだい児も一緒に巻き込んで、遊びの中でコミュニケーションの練習をするのも良い方法ですよ。

💡 ポイント

きょうだい児には、「お兄ちゃん(弟)は、心の成長がゆっくりなんだよ。お手本を見せてあげようね」と伝えると、頼もしい小さな先生になってくれることもあります。

Q4. 療育の先生と意見が合いません。どうすればいいですか?

親御さんは「生活のプロ」であり、先生は「発達のプロ」です。お互いの見えている景色が違うのは当然のことです。まずは「家庭ではこういうことに困っている」という現実を伝え、それに対して先生がどのような見解を持っているか、膝を突き合わせて話し合ってみてください。どうしても相性が合わない場合は、事業所を変更することも一つの正当な選択肢です。


まとめ:信じて待つ時間の先に

すべての努力は、水面下で繋がっている

日々の療育は、まるでコップに一滴ずつ水を垂らしているような作業かもしれません。ある日、コップが満たされるまでは、表面には何の変化も現れません。しかし、最後の一滴が加わった時、水は一気に溢れ出し、目に見える「成長」として現れます。あなたが今日、お子さんのために行ったすべての働きかけは、決して無駄にはなっていません。

私たちは、これからも「亀の歩み」を楽しみながら進んでいくつもりです。いつかまた、新しい「芽」が出る日を夢見て、焦らず、比べず、今日という一日を大切に過ごしていきたいと思います。この記事を読んでいるあなたのお子さんにも、いつか必ず、素晴らしい実りの瞬間が訪れることを信じています。

次の一歩へのアクション提案

今日、お子さんの寝顔を見ながら、最近の「1ミリでも変わったところ」を一つだけ探してみてください。それは「寝返りの打ち方が変わった」でも「嫌いな野菜を口に含んだ」でも何でも構いません。その小さな発見を、誰かに話すかノートに書いてみてください。それが、明日を生きるあなたの大きな勇気に変わるはずです。

✅ 成功のコツ

SNSや親の会で、その「1ミリの成長」をシェアしてみましょう。「すごいね!」と誰かに承認されることで、あなたの努力が客観的な価値として再確認され、心の充電ができますよ。

まとめ

  • 成長は非連続:変化が見えない時期も、脳の中では着実に「根っこ」を張っている。焦らずに見守ることが大切。
  • 環境調整と一貫性:療育のエッセンスを家庭の生活リズムに溶け込ませ、視覚支援や構造化を淡々と続ける。
  • 親の休息を優先する:「親の笑顔が最大の療育」。支援の力を借りて、持続可能なサポート体制を築く。

鈴木 美咲

鈴木 美咲

すずき みさき42
担当📚 実務経験 15
🎯 相談支援🎯 当事者・家族支援

📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員

相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。

社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。

🎨 趣味・特技

ヨガ、カフェ巡り

🔍 最近気になっているテーマ

ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア

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